白き探訪者

「ここのメモリーも破壊されていたよ、アレイ」
少女が片手に持つ端末に話しかけると、アレイは元気良く答えた。
「これで2274箇所目の破壊メモリーですね!もう生存メモリーの探索はやめては?」
アレイは同情することなくストレートに少女に選択肢を提案する。
だが少女もまた同じように返した。
「ダメ、世界のどこかでまだメモリーを探しているかもしれない」
「仮にそうだとしても、そのメモリーを必要としている人が生きているかどうか?」
「その人が死んでいたらメモリーは必要無いって言いたいの?アレイは」
少女の語尾に若干の怒りが含まれていることを感じ取ったアレイは発言を補正し、弱気になる。
「そうとまでは言い切りませんが」
「なら生存メモリーの探索を手伝って、次は?」
「仕方ありませんねえ!次は西に120km地点の放棄された村になります!」
「それって明日には着きそう?」
「直線距離の120kmですよ?実際は10日ほどかかると予想されます!」
「なら水と食料だね、アレイ探して」
「そこの破壊メモリーの下にある貯蔵庫がそうですよ」
少女が破壊メモリーをどけると、瓦礫の下に地下室へのドアがあった。
ドアを開けると、わずかだが微光量の発光体が道を照らしているのが分かる。
「アレイ!電気だよ!」
「最近では珍しいですね?」
「電気があるならしばらくここに滞在してもいいかもね」
アレイはその提案に驚きながら聞いた。
「珍しいですね!あなたが滞在するなんて言い出すとは、いつものように一刻も早く次の場所にと言うのかと思いましたよ!」
「ここの破壊メモリーは、道標なんだ」
「道標?と言いますと?」
「破壊されると分かっていて、あえてここに配置したんだよ。この目印のためにね」
「何のために?救助を期待してですか?あるいは誰か友人知人へ知らせるために?死んでるかもしれないのに?非効率的ですね!」
「そうだね、非効率的だよ。でもね、アレイ。私達はそう言うのを希望って呼ぶんだ」
「希望よりも食事と水が大切ですね!」
「情緒が無いんだからアレイは」
少女はペシッと軽くアレイの端末を片手で叩くと、地下室ヘ足を踏み入れた。

<旧世界記録より>