アイラの記録

私はその日、部下のライドウがドアを蹴破る勢いで激しく入室してきたことを覚えている。
彼は眼が興奮し、足は震え、手が無意味に激しく動いていた。
そして呂律が全く回っておらず早口な為、彼の話していることの一文のみ理解出来た。
「水をくれ」と。

ライドウが落ち着いた頃、第404会議室に連れて行って貰った。
そこには予想だにしない人物として人類防衛司令官アビラ、人類防衛副司令官オーシャが居た。
また名前もほとんど覚えていない有名人が多数いた。
会議室の中央には、私の同僚であり旧友でもあるザナックスが居た。
彼は私を見るなり、顎が壊れるんじゃないかと思うぐらい大きく口を開けて笑顔でこちらに来た。

私はもう何日も研究をぶっ続けていたので、ハグをするのをためらったが彼も似たような状況だった為、ハグをした。
どうしたんだ?と彼に聞くと、人類は勝利した、と彼は言った。
膨大な時間と資材を費やして、ついに人類は惑星意識に勝てる兵器、戦略結晶の生産に成功した。

この戦略結晶の原理は単純だが、単純が故に効果的だ。
惑星意識が伝播時に使う周波数帯域に対して強力な逆浸透とも言うべき存在を発生させ、
かつそれらは威力がほとんど減衰しないことから、一度使うだけで膨大な広範囲の惑星意識を一気に無効化することが可能だ。

もちろん理論上の話であり、これらは実際に使用してみないと分からない。
人類防衛司令官のアビラは早速、この兵器の実戦投入を主張した。
ザナックスはあくまでもまだプロトタイプ型なので、起爆に関して幾つか特殊な条件が必要だとアビラへ説明しつつ、私はそれらを聞きながら一つの不安を覚えていた。

我々が今までやってきた惑星意識との戦いで感じたことは、まるで人類の考え方や思考様式や技術進展度すらも把握した上での攻撃のようだったことだ。
つまるところ、惑星意識は私達が何であるか、を知っているが、私達は惑星意識が何であるか、については何も知らないのだ。

知らない相手に対して我々は勝てるのだろうか?
ましてや人類は、本当に人類を正しく理解し、知っていると言えるのだろうか?

我々が惑星意識に勝つには、兵器や反撃ではなく、我々自身への理解を深めることではないだろうか。
つまり、我々人類が人類と言う物を理解した時、我々は初めて惑星意識に対してこのように主張出来るのである。
「私達は人類である」と。

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