お兄様へ

お兄様へ

そちらは景色が宜しいでしょうか。
私のところは平穏そのものです。
今も鳥の鳴き声と川の流れる音に癒やされております。

私はこの土地が好きです。
太陽は眩しいぐらい明るく、木々は楽しげに育ち、花は元気に茎を伸ばしています。
今は同じ家に他に20人で共同に暮らしています。
先日出会ったばかりですが皆さんとても仲良くて、笑顔で、楽しい人達ばかりですよ。
ここの自然はとても静かです。
お兄様のいる土地はどうでしょうか?
お兄様はもともとそれほどお身体が強くありませんし、無理をなさっていないか心配です。

覚えておりますか?
お兄様と小さい頃遊んだ時に、花を器用に折り曲げて花冠を作って下さったこと。
今だから言うのですが、あの花冠は私にとって絶対なのです。
あの時頂いた花冠をつけた時、私は宇宙を、天を、全てに対して無限の可能性を感じて、
そうですね、言ってみれば私は自分と言う存在を獲得して、自信を持ったのです。

あれ以来、お兄様が居ない時でも私は自分自身で花冠を作って自分につけています。
今は可愛らしいピンク色の花冠をつけています。
私はこの花冠をとても気に入っています。

お兄様のところはどうでしょうか?
お仕事は大変だと噂で聞きました。
人類の為のお仕事はやはりとても忙しく、大変なのでしょうか?
怪我をなさっておりませんでしょうか?
辛い目にあっておりませんでしょうか?
お兄様の身体は弱いけど、心は頑固なところがあるので無理をしていないか心配です。

先月送ったハチミツは美味しかったですか?
あれは特別なハチミツです。
地元の人が丹精込めて作ったハチミツで、地元の人だけがこっそり消費する世界でもここだけの特別な品です。
ハチミツを入れていたあの美しく透き通る瓶も、この地元で作られた物なのですよ。

多分、お兄様とはもっともっと話しておかなければいけないことがたくさんあると思います。
でも満足行くまでお話をするのも怖いのです。満足したらそれで終わってしまいそうだから。
だから私のワガママですけど、今回はお話をここまでにします。
次はスープと山菜のお話をしますね。

私のことは心配なさらないで下さい。
お兄様にあの時頂いた花冠は、私にとって宝物です。
あの花冠があったから、私は今日を生きることが出来るのです。
私は本当に幸せです。
お兄様もお身体ご自愛下さいませ。 愛する妹より。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル テビュロスムタ山岳地帯 民間人避難支援決死防衛隊志願者遺書より –>

ノヴァ管理機構 Log000-20 輝度の世界

俺はこの世界が大好きだ。
こんなにも綺麗な世界と、楽しい人々と、優しい世界と、別れるなんて想像もつかない。
そりゃ俺だって泣いたことだってあるさ。
もちろん怒ったことだってある。
でもそれが何だって言うんだ?
それはそんなに重要なことか?
俺にとって重要なことは美しさと楽しさと優しさだ。

今俺はバカンスに来ている。
どこにだって?言うもんか。お前らガサツな人種にはな。
ここは俺だけのリゾートなんだ。
俺は今世界を感じている。
この朝に走る光の筋、昼に照らす眩しさ、夕方に見せる茜色、夜に見せる青い世界。
俺はこの世界の全てを愛して、抱擁している。

空を見てみろ。
星だ。
俺は星が好きだ。
星は世界がなんて広いんだろうと言うことを言葉ではなく存在で教えてくれる。
学者や評論家の文章や理屈じゃない。
存在と言う誰にも否定出来ない事実を一目瞭然に俺に見せつけてくれる。
これほど分かりやすい世界は無い。

星を見ていると俺は思う。
もしかしたらもっと未来に、そのさらに未来に人は星へ向かうのかもしれない。
その時は空に見える光は、全て人々の輝きに見えるのかもしれない。
でも俺にとっては今この星が全てなんだ。
この星は俺なんだ。
俺は欲深い人間だと思っていたけど、こんなにも一つの星で十分だと思ったことはない。
もしかしたら、一つの星を望むことすら物凄い欲深いことかもしれない。
俺はこの星を死ぬまで抱擁して、死ぬまで愛して、死ぬまで離さないつもりだ。
星は俺を裏切らないし、俺も星を裏切らない。
こんなにも楽しくて素晴らしくて愛すべき世界があるんだってことを俺は知ったんだ。

<– ノヴァ管理機構 歴史記録素子保管庫 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 臨時兵站基地所属軍属民間人の手記 –>