符点のオーキュライド

ノヴァマリアが旅立ったんだ。
そう彼女は溢れるように小声で話すと、羨望の眼差しで1アシュケールも無い小窓から外を見た。
そこには億人が望む、万人の器、ノヴァマリアがあった。
それは途方も無い数の人間を載せていると言う。
どこへ向かうのかは知らない。
いつの間にか作られ、いつの間にか旅立とうとしている。
人々を、人類の未来を、希望の名とすべく。

式典でよく聴く歓声と号令が飛び交う。
小窓の前に居並ぶ対人狙撃銃を持つ警護兵達は、落涙を押し留めようともせず
旅立つ船に敬意と縋りと畏敬を向けた。

行くよ。
彼女に声をかけ、手を取って小窓から離れた。
歓声、悲鳴、希望、怨嗟が小窓から漏れ伝わってくるのが苦痛でしかたない。
感情の洪水は脳を狂気に陥らせるようだ。
彼女はあまりそれらを気にかけないようだった。
ただ、彼女は純粋にノヴァマリアの美しさに見惚れていたのだ。

小窓から激しい光が溢れ、部屋を満たした。
飛び立ったのだ。
兆人が願う世界の旅路が始まったのだ。

世界は終わるのではなく、始まるのだ。
それだけでもそれは存在意義があった。
どのような未来をもたらすのだとしても、人は希望を捨てて生きてはいけなかったのだ。

まるで児戯のように窓に食らいつく無責任な大人どもに軽蔑を覚えながら、当時幼少だった私は・・・声をかけた彼女、つまり姉を連れて地下へ向かった。

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