王と子 Log2

億民は万土の住まい、そこには百の王が住んでおり、その内部は常に争いが絶えなかった。
そもそも土地と土地の間には巨大で複雑な機械と壁が鎮座しており、それぞれの土地は完全に隔離され、それぞれが王を持った。

セビヌル二重王国とヨヅハ王国はそれぞれ秘術を用いて次々と燐土を開き、お互いが領土を広げることに奔走した。
だがたった一カ国、異質な王国があった。
遅れて機械と壁を開放された国、アマト王国である。
アマト王は常に笑いが大好きで王宮は笑い声で満たされていた。
またアマト王自身が非常に明るい性格で、悩み事や相談事を持ちかけてきた相手も最後は明るくなって家に帰ることが出来た。
そのため人民は常に笑顔で、土地は豊かとは言えないが貧しくも無く、安定していた。

ある日、アマト王のもとへヨヅハ王国から使者が来た。
「アマト王よ、天下を統べるヨヅハにつくか、それとも奴隷王のセビヌルにつくか。自由に選ぶが良い。我が国は剣と盾を持って応じよう、剣の矛先はどちらに倒れるかは重々意識するが良い」
ある日、アマト王のもとセビヌル二重王国から使者が来た。
「アマト王よ、天下を開放する自由のセビヌルにつくか、それとも支配と恐怖のヨヅハにつくか。その答えによって我が味方か敵かがハッキリする。なお沈黙は敵とみなす」

アマト王の部下達は会議を開いた。
だがその場でもアマト王は笑顔を絶やさない。
「王よ、なぜそんなに笑顔なのですか」
「よく聞いてくれた。なぜなら我が代理人民ネネが子を産んだからだ」
二カ国の使者から脅迫を受けているにも関わらず、まるで意に介さず豪胆に子の生誕を祝った王を前に部下達は恥じた。
その通りである。
国の命運とは子にあり、子の上に王が立つ、子を守る王がいることによって国が成り立つのである。
部下達の答えは決まった。
「王よ、二カ国への返事が決まりましたぞ」
「決まったことは善いことである。今日も一つの大いなる善行が成し遂げられた。
このめでたい今日の善き日を二カ国の名から取りヨセヌの日とする。我が子の名ヨセヌである」
「ヨセヌ!」
「ヨセヌ!」
部下達は将来産まれるであろう子の名前を叫び、剣と盾を持って会議室を出た。

ヨヅハ王国の使者は言った。
「アマトよ、返事は!」
「返事はヨセヌである!」
ヨヅハの使者は大変困惑した。
セビヌル二重王国の使者は言った。
「アマトよ、返事は!」
「返事はヨセヌである!」
セビヌルの使者は大変困惑した。
「そしてこれが我々の返事である!」
アマトの兵達は剣と盾をヨヅハの使者に渡した。
アマトの兵達は剣と盾をセビヌルの使者に渡した。
「答えはここで両国が決めよ!」
アマトの兵は部屋の二重扉を開ける。
そこにはヨヅハの使者が、そこにはセビヌルの使者がいた。
「セビヌルの!」
「ヨヅハの!」
それぞれの使者は敵が間近にいたことに驚愕し、前を向いた。
「アマト王よ!ここは闘技場ではない!」
「その通りだ!アマト王よ!決断をするのはアマト王である!」
奥の部屋で王座に座っていたアマト王はゆっくり立ち上がり笑顔で言った。
「ヨヅハの!セビヌルの!それぞれ両国の使者を我々は歓待する!だが選べと言われたら?我々はこう答えよう!我々は未来を選ぶ!ヨセヌである!」
「ヨセヌ!」
「ヨセヌ!」
部下達は口々にヨセヌと叫ぶ。
「ヨセヌとは何だ!」
「そうだ!誤魔化すのではない!」
口々に使者達は抗議した。
「我が誤魔化すと?ヨセヌとは何だと?」
アマト王は前へゆっくりと歩いた。
「ヨセヌとは未来である!子である!我が子である!人民である!国である!この世の全てである!
ヨセヌの前で嘘をついてはならぬ!ヨセヌにはこの世の真実を教えねばならぬ!ヨセヌはまだこの世で独り立ちは出来ない。
だが未来は確実にヨセヌの手に渡るであろう!国を為すのは未来である!」

王は使者を追い返した。
アマト王は全人民が奮い立ち、武器を持ち、農具を武器にし、枯れ草や枯れ葉まで集めて硬めて鎧にした。
それは一つの生物であった。
アマトは群衆が集い、王が統べる国ではない。
王は群衆の中で先頭に立つ存在であり、全人民はそれの後を追うのである。

王は全力でかけだした。まるで子供のように裸足で駆け出した。
従者は大慌てで靴と武具を持ち王に走り寄る。
王は走りながら鎧をつけ、武器を手に取り、空を飛ぶように軽やかに走った。
それを見て忠臣達も武具を手に取り駆け出した。
それを見て人民達も駆け出した。
すべては未来のために、すべては子のために。

脚の速い王が国境に到達した時、王の周囲には数十人しかまだ来ていなかった。
それを見たセビヌルとヨヅハの兵達は驚いた。
わずかこれだけの手勢で国境を押し留めようと言うのか?
するとアマト王は笑顔を絶やさぬまま前面に出た。
「我はアマト王、アマト国の王である。セビヌル、ヨヅハよ、聞くがいい。
我々アマトは絶対に国を譲らぬ、闘いとは価値のために人心と添い遂げる。
我々の絶対不動の価値を誰にも譲ることは無いだろう。
子には真実を知らせよ、子をいつまでも子として扱ってはならぬ。
子は我らを写す鏡である、恥じよ恐れよ生き死にたまえ。
子の先には我らが、子の後には我らがいる。
万土を子に見せよ、億民と触れ合え、その先には何があるか。
子のため未来のため、そして、代え難い価値のために!」
王が右手を突き上げると王の後ろからは恐ろしい形相の人民と忠臣達が様々な武具を持ち、怨嗟の声をあげ、地面を揺らすがごとく押し寄せた。

セビヌルもヨヅハも使者を追い返されたばかりで、前線の兵達にはまだ指示が届いていなかった。
鬼の形相の大軍を見たセビヌルもヨヅハの兵達は、それに驚いて国境から引き上げた。
その場に残されたのはアマト王の笑顔であった。

王は笑顔でもって戦いを制した。
この日からアマト王は、「笑美の王」と語り継がれる。

<- 日時不明 場所不明 状況不明 ノード家 保管資料より ->

王と子 Log1

億民は万土の住まい、そこには百の王が住んでおり、その内部は常に争いが絶えなかった。
そもそも土地と土地の間には巨大で複雑な機械と壁が鎮座しており、それぞれの土地は完全に隔離され、それぞれが王を持った。

その中でも最も痩せ細った土地の王、ヨヅハ王は苦しんでいた。
土地の半分は沼地であり、残りの土地はかろうじて耕作出来るも収穫量の少ない痩せた土地であった為、大半を畑にせねばならず、
わずかな極小の土地に重なり連なるようにして住居を建て、身を寄せ合うようにして住んでいた。
ヨヅハ王は生涯をかけて土地を隔てる機械と壁を調べ、秘術を見つけた。
その秘術を用いて機械と壁を破壊し、燐土へ道を開けることに成功した。

燐土に住まう人々は驚いた。
ある日突然機械と壁は崩壊し、そこから無数の人々が押し寄せたからだ。
燐土へ行くことを目的として装備を整えていたヨヅハ王の兵と異なり、燐土は何も準備もしていなかった為、たった1日で全土を支配された。
これにより労働力と土地を得たヨヅハ王はさらに拡大政策を進める。
次々と土地を隔てる機械と壁を秘術によって開け、何も対策を進めていなかった燐土は次々と制圧された。
だがセビ王とヌル王の前でヨヅハ王の進撃は止まった。

セビ王とヌル王も秘術を持っていた。
だがその秘術は完璧ではなく、
セビ王の秘術は壁に穴を空ける術であり、ヌル王の秘術は機械を解体する術である。
ある日、セビ王は秘術を発見すると機械が無い僅かな壁の隙間に穴を開けて水を流した。その水が枯れる頃、穴の奥から声が聞こえたので燐土へ声を投げかけた。
ヌル王は機械を解体して土地を改良し、良き国を作っていたが、ある日機械を解体すると奥から声が聞こえる。
このことがきっかけとなり二人の王はお互いの秘術を用いて交易をしており、両国を繁栄たらしめていた。
交易は王の特権となり、王に富をもたらして国と王族を繁栄させた。

同時に二人の王は思った。
このような秘術があるのであれば、いずれ他の王も秘術を持っており、燐土へ赴こうとする王がいずれかにいるのではないか?
セビ王は爆薬と大砲を、ヌル王は鋭い剣と丈夫な鎧を作って相互に交易した。
ある日、セビ王とヌル王をそれぞれ囲む機械と壁は突如としてヨヅハ王の秘術によって崩壊した。
だがヨヅハ王は完全装備のセビ王兵士とヌル王兵士によって打ち砕かれた。
ヨヅハ王の兵達は完全に油断していた。
叩くことを目的とした剣と、切り傷を防ぐことのみを目的とした鎧だけでは
斬ることを目的とした剣と、命を守ることを目的とした鎧に勝てず
数を揃えても爆薬と大砲で全てを吹き飛ばされた。

ヨヅハ王の兵の敗北を見て、その支配下にあった奴隷労働者達は我先へとセビ王とヌル王の土地へ逃げ込み兵となり、逆にヨヅハ王の領土を侵攻していった。
セビ王とヌル王もまた脱走奴隷達を鼓舞するために「奪還兵」と名付けて自らの土地を奪還させた。
このままヨヅハ王は息絶える、そう思われていたがヨヅハ王はさらに重武装化した親衛隊を多数抱えていた。
ヨヅハ王国は多数の領土を抱えており、治安維持部隊も軍隊も多数の奴隷層から引き上げた奴隷支配層に任せていた。
そのため、彼らが反乱した場合に備えてさらに重武装化させた親衛隊を構築していた。
この親衛隊の指揮官、アクルは頑強かつ冷静な指揮を行い親衛隊による死物狂いの防御線を構築し、そこが国境となった。
セビ王とヌル王は互いに婚姻しセビヌル二重王国を結成。
ヨヅハ王は全土を二分する二大王国となった。

セビヌル二重王国とヨヅハ王国はそれぞれ秘術を用いて次々と燐土を開き、お互いが領土を広げることに奔走した。
だがたった一カ国、異質な王国があった。

<- 日時不明 場所不明 状況不明 ノード家 保管資料より ->