アイシャ
古の時代のように感じられる冷たい日、焼き立ての芋の甘い香りがふわりと漂い、アイシャから授かったその宝物を、心温まるスープに浸けて食した。
このジャガイモのスープは、まるで人々を慈しみ包む暖炉のように、身体の奥深くまで温めてくれる。
「ああ、久しぶりのまともな食事だ」
心から感謝する。
今までの人生で、ジャガイモを食べてその甘さに気づいたことは一度も無い。
しかし、こんな厳しい日々を経て、それがどれほど甘味豊かな食材であるかを痛感する。
このジャガイモが体温を持続させ、私たちの免疫力を高め、体力と抵抗力を底上げするのだ。
寒冷地においても、このジャガイモは健やかに成長し、地中で隠れるようにして実をつけるため、空の鳥たちの目を欺く。まさに、偉大な食物だ。
アイシャが、純真な瞳で問う。
「あと何日、この場所に留まるの?」
私は汚れて掠れたカレンダーを開き、照らし合わせて考えた。
「あと2日で金曜日を迎える。そして、あの遥かな山で焚き火が炊かれるはずだ。それこそが私たちの待ちわびた合図なのだ。」
私の指先が示す先、遠くの山をアイシャが真剣に眺める。彼女の深いため息が寂しい音となって宙を舞った。
「あの地点まで、どれほどの距離があるのか。」
「正確には分からんが…」
「考えるだけでも疲れる。」
そう言ってアイシャは、寝袋の中に身を委ね、ふんわりとした暖かさに包まれるようにして眠りへと誘われた。
しかし、突如として目の前の光景に驚き、信じがたい現実に目を瞠った。
まさか、あの山に火が灯っている!
全身を槍で突き刺されるような激しい衝動を感じ、テントに急ぎ戻り、沈睡するアイシャを力強く揺すった。
「アイシャ、アイシャ、起きろ!火だ、火の光が見える!」
「ああもう…」とアイシャは眠そうな顔でぼんやりと私を見たが、その目には火の光が映り込む。
一度、二度、そして三度。信じがたい現実に目を凝らし、最後の四度目に私を見つめ、言葉を漏らした。
「本当に…火だ。」
「ああ、確かに火だ。もはや猶予はない。急ごう。」
私たちの間で高まる緊迫感。瞬く間にテントを畳み、移動の準備に取り掛かる。
「寝ずに、この夜を徹して?」
「火が灯されてから24時間。この約束を破るわけにはいかない。すでに30分が過ぎているかもしれないのだ。急ぐのだ。」
火が灯された場所まで急いで登山したが、直線距離では短くとも、山と谷で大きく時間を費やし、既に18時間を経過している。
「もう限界。」
アイシャはそう言いかけたが、ぐっと足を踏みしめる。
「と言いたいところだけど・・・。」
それを見て私もまた奮起する。あと少し、少しなんだ。
山の中腹にある、火が灯ったと思わしき場所に到着する。
既に自然風のせいか火は消えてしまっていたが、恐らくここのはずだ。
「ああ…。」
絶望するようにアイシャは倒れ込む。
そこには定時連絡用の自動発火装置があった。
原始的な電気加熱式の発火装置だ。
これとタイマーを組み合わせて、自動発火していたのだろう。
「今度こそと思ったのに」
悲しむアイシャを見て、ふと思った。
また、希望はある。
自動発火装置から伸びる誘導線のような物を辿リ、数歩歩くとそこには厳重にロックされている箱がある。
「ああ、アイシャ見てくれ、アイシャ。」
私は興奮しながら、ロックの番号を入れた。
ガシャっと解除する音が聞こえる。
全身が歓喜に震え、全身が飛び跳ねるように激しく脈動する。
「どうして?なんで番号を?」
「アイシャ、君の誕生日の番号を入れたんだ。つまりこの場所は。」
そこまで言って、アイシャは手を前に突き出した。
「ありがとう、もう言わなくていい。」
夜明けが来た。
眩しい太陽の煌めきだ。
決して何かを救うだけではないが、この箱の中にはきっと称える物か、救う物か、あるいは何か想像がつかないものがあるのだろう。
私とアイシャは両手を重ね、一緒に箱を開けた。