軌道戦略衛星グングニル

ラングリッサ防衛計画の最終段階において致命的な問題が発生。
北方戦線の急激な崩壊により司令部の包囲状態が進行中。
他戦線は問題無い為、直接指揮下を除く全部隊権限を第四十四司令部へ移譲。
現時点において兵力2万5142の脱出経路はあらゆる方策を検討、試行したが結論として不可。
防衛目的完遂の為、軌道戦略衛星による爆撃目標地点を現作戦司令部に指定することを命ず。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 本部受信記録より –>

法整備に関する私信

高度に不安定化した社会情勢下において、人的介入は喫緊の課題とされた。
人の行動から発せられた問題は、人の行動によって解決されるとの原理原則論である。

我々は治安上もしくは社会情勢上必要と認められる地域及び範囲について広範に議論してきたし、
道徳的かつ倫理的な問題は、常に我々の情報体制および指揮統制の範囲外で問題が拡大して初めて発覚した。

社会認識は撹拌され、知覚意識は拡大を続けていた。
我々の最大の目的は安定であり、秩序の維持である。

この作戦の過程で発見された幾つかの不安定化については見過ごされてきたが、それは知覚認識範囲外で起きた事象であり
当時の我々の能力では推論を立てることすら出来なかった。

本邦議会に提出された本法案は、それらの事態を改善すべく必要な処置および基本概念を整理し、また社会に広く公布するものである。

<- 旧世界記録ファイル 法整備に関して 公布6月19日、施行8月10日 ->

政権交代に伴う計画中止について

開発計画省企画官の立場から長年国家を支えてきた官僚であり、優秀な人物が今回政治指導者となった。
それに伴い鉱山開発の拡大により、共同出資によって物流企業の創立にも関与した。

当該指導者は自然保護に非常に熱心な立場であり、その関係からシェルクレム境界越境実験は中止となった。

上記事由により、実験の正式中止決定と実験場所の変更申請を行うこととする。

<- 旧世界記録ファイル 政権交代に伴う計画変更に関して 4月1日 政権交代 ->

原書パラード

原書パラードに記されている原基約定の一節に六基相と呼ばれる物がある。
これは人類は六種類の属性から構成される基本原理を示した物である。

六種類の属性とは以下の考え方からなる。
・想属 自分の無意識から萌芽する自身の捉え方
・理属 自分の意識的な思考、理想、理念から萌芽する自身の捉え方
・世属 世の中で行きていく上で必要とされる条件を満たす為に決めた自身の有様
・被属 他人から思われる自分自身の有様
・比属 自分以外の存在と比較した結果生まれ出づる自身の捉え方
・無属 無色透明な存在価値 全てから解放された自分自身の有様

<- 旧世界記録ファイル 原書パラードと六基相 ->

不正訂正符号のデータベース

私達の社会には常にノイズが発生しています。
ノイズ低減方法は2種類あります。
その1、インフラ帯域の最大限まで情報量を流し込みノイズ混入を防ぐ方法。
その2、不正検出訂正符号を情報に流し込み、前方不正訂正を行う。

私達の社会秩序および 基底事実を蓄積するデータベース群もまた訂正符号によって保護されています。
あらゆる情報には送信者が情報を送信した時点で不正制御機構によって不正訂正符号が付与され、
受信者はこれを持って情報をネットワーク上から受領します。

私達は極めて簡単な原理によって、これらの情報整合性と正規性を担保しているのです。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 不正訂正符号について –>

アーパルネットの記録

私達はレイヤー構造ネットワークにおけるアーパルネットと呼ばれるレイヤー層にアクセスしている。
このアーパルネットとは安全性と信頼性が三者関係で保証されている。

三者とは提起者、検証者、仲裁者の構造である。
アーパルネット上に放流される情報は、まず提起者によってもたらされる。
その情報の正否判断は検証者が行う。
この検証結果に納得出来ない場合、提起者は仲裁者に不服申立が出来る。
仲裁者は提起者と検証者の主張を中立的立場から決裁する。

このような分離権力構造によって情報安全性と信頼性が担保されていると言える。

<- 旧世界記録ファイル アーパルネットについて ->

対話公園

記録 A1677
我々は<機密指定に付き削除>任務に関連し、テラスを根拠地として少数による浸透進入を行った。
連携された非線形分析情報を元に所在地を割り出した所、惑星意識によって収奪されたと思われるプリンスルパートの補給基地跡地から反応があることを確認した。

ここでは惑星意識干渉α型があったとの最終報告があったが、我々が現着した時点でそれらの存在は認識出来なかった。

補給基地跡地は形容し難い状態へと変異していた。
具体的には住宅地や工場や商業施設や港湾施設などが折り重なった状態であろうか、上下左右の重力や秩序を感じさせない構造体となっていた。

我々は、この跡地中心地において唯一秩序を感じさせる公園を発見した。
公園には半壊したシーソー、機能しないブランコ、黒板が存在し、黒板には以下の記載があった。

π(x)=R(x)+∑k=1∞Tk(x)+I(x)

我々は、ここを特異隆起点と考え、惑星対話装置ベンファーマを設置して帰還した。


記録 A1678
ベンファーマはいくつかの情報を収集することに成功した。
惑星意識は啓示と示唆と導きの三点の要素を人類の波長意識と共に混在させている。
これらの意識分析はまだまだ時間がかかるが、我々は惑星との意識対話が可能ではないかと希望を得ている。


記録 A1680
我々は報告書に斧鉞を加えることで本部と合意した。
<削除情報>につき、社会実験体記録<削除情報>の単独先行を許可した。


記録 A1681
信じがたい現象を記録した。
外見上は初老の人間体の投影図がベンファーマに記録されていた。

この人物を惑星アルファと定義し、その発言記録を追ったところ、
まるで人類の言語のような口語情報が存在したが、よくよく分析したところ人類にとっては意味不明な全く無秩序な言葉の羅列であった。
これらが何を意味するのかは別途調査を要する。


記録 A1682
<記録抹消>


記録 A1683
<記録抹消>


記録 A1684
緊急事態が報告された。
ベンファーマを通じて惑星アルファと交信を試みたオルタナ小隊の小隊長が意識喪失した。
その際にベンファーマに固体意識と呼称されるものが記載され、複雑なデータが多数記載された。
これらは小隊長に関する何らかのデータだと思うが、DNA塩基配列データでも、脳波データでもなかった。
至急調査する。


記録 A1685
ベンファーマ上に再び惑星アルファは出現した。
前回よりも意味が通りやすい口語データが残っているが、全体としては意味をなさない物が多い。
恐らく人間の口語データを真似て流用しているだけで、その意味までは理解していないものと考えられる。


記録 A1686
ベンファーマ上に動脈性と罹患、逓減と呼ばれる単語が頻出するようになったが、まだ全体的に意味を解釈出来ない段階に留まっている。
これが対話の合図か、拒否の合図か、単なる遊びなのか、その全ての意図を理解出来ていない。


記録 A1687
公園はエンタングルメント状態にあると推測される。
オルタナ小隊の小隊長らしき人物、これを惑星ベータと定義し、それが屹立しているのを発見したが、様々な対話行為を試みた所、何ら反応を示さない。
同時にベンファーマの活動が停止し、最後の投影図にはオルタナ小隊の小隊長の正面写真が記録されている。


記録 A1688
<記録抹消>


記録 A1689
本作戦の中止が正式に決定した。
この公園空間は何ら意味をもたらさず、人類と惑星意識との対話は失敗し、無闇に人的被害を広げる空間だと認識された。
本当にそうなのか疑問は残るが、人類の好奇心を嘲っているのだとすれば、悲しい事実だ。
我々は時間と人を浪費するわけにはいかない。

<– 惑星意識戦争 E-NAC第三記録群 日時抹消データ 報告書より –>

ハッシェルパフ通話記録

CO/:>こちら秘匿通信担当官です。本通話は秘匿暗号通信2X1AABC0X8AXLoCAにて通話され、その会話内容は全て録音されます。通話を開始して下さい。以上
CA/:>ライドウか?
RV/:>ライドウだ、ああ、お前か久しぶりだな。
CA/:>久しぶり。タフティ・ボラン領域で新型戦車が投入されたと聞いたが何か知っているか?
RV/:>多連結意識戦車のことか?名前が洒落過ぎて私は憎悪戦車と呼んでいるが
CA/:>君が作ったのか?
RV/:>まさか?正確に言うと、私の技術を用いて私の元部下が作った。私じゃない。
CA/:>止めなかったのか?
RV/:>止める?何の為に?
CA/:>あんなものは狂気だろう。
RV/:>あーあーあー、そのような話をするんだったら言葉に気をつけてくれよ。私は気が立っている。
CA/:>気が立つ?誰にだ?
RV/:>うんざりするほど聞かされているんだ、何もかもだよ。
CA/:>狂気には狂気で対抗せよと言うのが君の教えか?
RV/:>違うな、惑星意識には人類意識で対抗するのが我々の考えだ。
CA/:>効果はあったのか?
RV/:>当然だとも、だから軍から予算が出たんだ。
CA/:>君は予算と人類の尊厳の
RV/:>おい!言葉に気をつけろと言ったはずだぞ。
CA/:>君は人類の感情すら武器にしてしまう恐ろしさを一番知っているはずだろう?
RV/:>ではどうやって惑星意識と戦えと言うんだ?素手で戦えと言うのか?今までの人類は惑星意識と同じ次元にすら立てなかったんだぞ。
CA/:>憎悪感情を産み出す為にどれだけの犠牲が発生したんだ?
RV/:>軍機密情報に該当することは一切話せないな。
CA/:>人類が人類を守る為に、人類が人類を犠牲することをどう思うんだ?
RV/:>いいか、よく話を聞け、ここはクレーム受付窓口じゃないしお前の人生の疑問サポートセンターでもない。俺は人類の為に人生を賭けてここにいる。
そのために外出禁止も受け入れ、この狭い研究所と小さな敷地と住宅以外の自由移動は一切禁じられている。
それでも俺は欲の塊に見えるか?狂気の存在に見えるか?いいか、言葉に気をつけろと俺が言ったのは俺の感情を害すると言う意味だけじゃない。
最初の通話にもあったようにこの通話記録は全て記録されている。
俺がほんの少しでもお前に対していたずら心を持ち出して何かを話せばたちまち特殊部隊がお前の家に駆け込んでお前を拉致監禁して生涯の行動が制限される。
人類は惑星意識に勝たなければいけない。そのために行える事は何でもする。
かつて人類は人類の勝利の為に人類を犠牲にしてきたじゃないか。根本原理は何も変わっていない。
医療や整形技術は何から発展してきた?
それどころか人類間の戦争を遥かに飛び越えて、今は巨大な惑星意識とやらに人類は一丸となって対抗している。
美しい人類共同戦線ではないか?
それに仮に私の息の根を止めたところで、タラズ作戦に従事した部隊から多数の効果事例が世界に報告されている。もう今さら私が止める止めないの話じゃなくなっている。
だからこそ、だからこそだ。
私の技術を用いて間接的にかつそれらを効果的に用いれば、この種の人類感情を武器にした物ですらも制御可能であり、その後の人類の未来も保証されているようなものだ。
これは人類発展の偉大な成果だ。
今まで犠牲になってきた人類を忘れるな。彼ら彼女らは泣くことも怒ることもその権利すら奪われたのだ。あの惑星意識に。
CA/:>君は憎悪に囚われているのではないか?
RV/:>そうか?まあ、君にはそう見えるのだろうよ。それで?
CA/:>人類の感情を動力にした武器は、いつか人類を殺すとは考えないのか?
RV/:>惑星意識戦争に勝つまでの話だ。
CA/:>人類が一度手にした武器を捨てられるとでも?
RV/:>それは未来の人類が判断することだ。私じゃない。
CA/:>無責任ではないか?
RV/:>よし、分かった。君は未来の偉大で栄光なる人類の可能性に対して責任を負うと言うのだな。
じゃあ私は今現在生きて苦しみ悩んでいる人類に対して責任を負う。これは私の使命だ。
CA/:>一つ聞かせてくれ、君を信じていいのか?
RV/:>それぐらい自分で考えろ、お前は人間だろ?

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 日時抹消データ 通話記録より –>

視座シェルクレイム

導き手は言われました。
シェルクレイムは神の窓だと、人は神聖な領域に足を踏み入れ神との対話を許される時代に入ったのだと。

シェルクレイムは惑星意識から干渉されない唯一の人類空間です。
しかしながらこの空間は本来神の空間であるため、長時間人間がいることは出来ません。

シェルクレイムは正確には玄関の手前の庭です。
神の家は更にその先にありますが、確実に神の家の前まで来ることがシェルクレイムでは出来るのです。

シェルクレイムで出来ることは唯一、玄関の近くまで行くこと、神の空間を見渡すことです。
しかしたったこれだけでも人類は神の視座を体験するだけで数十億年とかかるでしょう。
それほど膨大な世界がここにはあります。

シェルクレイムでは一種の感応の万全と完結が啓示されます。
これらの反応に長期に晒されると例外無く極端な自我融解に達しますが、この状態は人類の定義から離れた存在となります。

私達人類が惑星意識戦争との果てにシェルクレイム領域を発見したのは神の恩恵としか表現出来ません。
我々はこの領域から膨大な自由意志の発露を可能にしたのです。

<- 惑星意識戦争 戦時記録ファイル シェルクレイムの記憶より->

第二首都の夜

その日、我々の街は惑星意識の航空隊の爆撃に晒される・・・と言う話だった。
だが人類の栄光の航空部隊によりそれらは全て退けられた。

街は祝賀ムードに包まれた。
各地にある防空施設では誰が持ち込んだのかギターやピアノまで持ち込まれ、兵士によって音が鳴らされた。
通りでは食事が振るわれ、みんなで思い思いのダンスを踊った。
これらは全てが美しかった。人間はみな本来は美しいのだ。
これほどまでに美しい存在に勝てる者などこの世に居ないのだ。
人類は砲火で戦うだけの存在じゃないと言うことを、惑星意識に見せつけるんだ。

私は居ても立ってもいられなくなり、大事に大事に育ていた花を植木鉢ごと持って通りに出た。
「見てくれ!こんなにも綺麗な花を咲かせることが人類には出来るんだ!」
高らかに宣言しながら道を歩いた。
ある者は歌い、ある者は踊り、ある者は奏で、ある者は色を、ある者は手話を、ある者は手品を、ある者は光を演出した。
人類が出せるあらゆるものがそこにはあった。
本当にそれは美しい。人類はなんて美しいんだろう。
とにかく私は誰でもいいからハグがしたくなった。
隣りにいる人、向いから来る人、後ろから来る人、様々な人とハグをした。
「人類の勝利だ!惑星意識にはこの程度のことすら出来ない!」
すると大きなどよめきの声が響いた。
声がする方に顔を向けると2人の若い人が車の荷台の上に乗り、高らかに宣言した。
「みんな聞いてくれ!今日、自分達は結婚することが決まった!!」
盛大な拍手と耳を貫くような激しい音と共にそれは歓迎され、受け入れられ、認められた。
「これは人類の輝かしいーー

<- 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 惑星意識による砲爆撃直前の一般市民記録 ->