茨のお城とお姫様

とある国の茨のお城にお姫様が住んでいました。
お姫様には三人の忠実な騎士がいました。
1人は体力が屈強な男、1人は精神が屈強な男、1人は体力も精神も屈強な男でした。

お城は北の北の、一番北の寒い地域にありました。
お姫様も騎士もいつも簡素な食事をしていましたが、今年は特に種類も彩りも無い食事でした。

お城の大地は寂しく、痩せていて、ほとんど食べ物が取れません。
私達は陽と熱を大地に当てることで再生を試みましたが、それは出来ませんでした。
私達の城の近くまで、夜になると野盗が襲ってくるので、大地を育てる余裕が無かったのです。

解放都市ナタールへ第二次復興団が到着した時、私達は救済活動をしていました。
病気予防の観点からまず大地浄化作戦を担当しました。

第一次大地浄化作戦 では総量640,000kgの熱力弾が投下されました。
効果評価では事前評価の 1,220,450wLP / Cx に対して質量計測評価ベースが 1,105,300wLP / Cx、熱量観測評価ベースが 1,302,805wLP / Cx となり、目的完遂と考えられます。

本作戦の実務評価基準はAA、投資評価基準はA-、政策評価基準は A+、会計評価基準は B-となります。

お城は年々と寒さに凍えるようになりました。
そこへ精神が屈強な騎士が姫に進言しました。
「私が野盗を退治しに行きましょう。この城と土地に未来を与えるのは私の使命です」

「しかし、野盗は非常に恐ろしい武器を持っていると聞きます。大丈夫なのですか?」
お姫様は精神が屈強な騎士に尋ねました。
「必ずしも大丈夫とは言えないでしょう、しかしやらねばなりません。もちろん全く計画が無いわけではありません、それは非常に練られに練られた計画です」
精神が屈強な騎士の瞳はとても力強く、 自信たっぷりとした返事でした。
お姫様はすっかり安心して答えます。
「あなたの忠誠心と名誉は永遠の物でしょう。頼みました」

リゾート施設オムニ・リュグレッサを復興司令として再建し、私達はここを活動拠点としました。
復興司令は約1760人が常駐する巨大行政機関です。
私達は復興動員令に基づく復興要員約26万4000人をここから指揮しました。
同時に幾つかの新技術も実験目的で投入することとなりました。

私達が社会基盤整備能力を取り戻しつつある時、広範囲に渡って適正環境再生が確認されました。
それはどれだけ強い希望と喜びだったでしょうか。

環境整備戦力の投入は予定通りです。

精神が屈強な騎士が旅を出てからしばらく時間が経ち、お姫様は日々不安になってきました。
「かの者は大丈夫なのでしょうか」
体力が屈強な騎士が応えます。
「かの者の忠誠心を疑う者など一人もおりません。しかしながらかの者も人の身、どこかで傷ついて癒やしておるかもしれません」
「傷だと」
お姫様が慌てて椅子から立ち上がると、体力な屈強な騎士は頭を垂れます。
「どうか私めに、かの者を助力する許可を下さい。必ずや生きて帰りましょう」

お姫様は不安に思っていましたが、しかし騎士達は常に勇敢でその魂が清らかであるのは事実なのです。
騎士達の想いを無碍にすることなど、誰ができるのでしょうか?
「分かりました。あなたにぜひ頼みましょう」

理念型遺伝子回路”オーシェ”に率いられた人工機械化部隊は復興活動に多大な恩恵を与えました。
土壌を改良し、空気を浄化し、自然豊かで人々が住めるよう街を整備しました。

私達は無機物と有機物の素晴らしき混合、配合の先に人類の生存領域を見出すことが出来たのです。
これをこそ私達は彼の地を新大陸と呼ぶ大きな理由です。

私達は火器を用いて草花を見事蘇生させました。
この奇跡は未来永劫語られることでしょう。

茨のお城にはお姫様と体力も精神も屈強な 一人の騎士が残されました。
騎士は言いました。
「先に出かけた二人が気がかりです、かといって城を出てはここは無防備になってしまう。
私はここから離れるつもりはないですが、二人の行き先だけが気になるのです」

お姫様は考えに考え、こう切り出しました。
「では二人で一緒に探しに行きましょう、それならばみんな見つかるでしょう」

こうして茨のお城は無人のお城となりました。
そのお城の広間には素敵な素敵なお花だけが残されていたのです。

< スキョルの終幕劇 第七章より >

私達は残された全てにおいて、この可能性と未来に富んだ大地を再開、再現、復興せねばならないと信じています。ありがとう。

<– 復興活動第二報告書より –>

ドーン報告書

 我々は境界空間を利用して移動したが、アンセルカンディムント市の惨状は劣悪であった。
市内は身体の一部が様々な楽器、植物、建物に変形させられた人間の遺体が路上に放置されていた。

人に対する取り扱いはまるで小さな虫を扱う児戯のようであった。
なぜこんなことをするのか。
まるで人間で遊んでいるではないか。

もしかしたら私達は本当に子供に遊ばれているのかもしれない。
それもこれも一人ぼっちにさせ、寂しい想いをさせていた私達のせいだと言う
受け入れ難い現実を認識するしかない。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル ドーン報告書より ->

軌道戦略衛星グングニル

ラングリッサ防衛計画の最終段階において致命的な問題が発生。
北方戦線の急激な崩壊により司令部の包囲状態が進行中。
他戦線は問題無い為、直接指揮下を除く全部隊権限を第四十四司令部へ移譲。
現時点において兵力2万5142の脱出経路はあらゆる方策を検討、試行したが結論として不可。
防衛目的完遂の為、軌道戦略衛星による爆撃目標地点を現作戦司令部に指定することを命ず。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 本部受信記録より –>

法整備に関する私信

高度に不安定化した社会情勢下において、人的介入は喫緊の課題とされた。
人の行動から発せられた問題は、人の行動によって解決されるとの原理原則論である。

我々は治安上もしくは社会情勢上必要と認められる地域及び範囲について広範に議論してきたし、
道徳的かつ倫理的な問題は、常に我々の情報体制および指揮統制の範囲外で問題が拡大して初めて発覚した。

社会認識は撹拌され、知覚意識は拡大を続けていた。
我々の最大の目的は安定であり、秩序の維持である。

この作戦の過程で発見された幾つかの不安定化については見過ごされてきたが、それは知覚認識範囲外で起きた事象であり
当時の我々の能力では推論を立てることすら出来なかった。

本邦議会に提出された本法案は、それらの事態を改善すべく必要な処置および基本概念を整理し、また社会に広く公布するものである。

<- 旧世界記録ファイル 法整備に関して 公布6月19日、施行8月10日 ->

メセニ統合機構 VL00X03 火と炎について

おはようございます。メセニ統合機構情報照会端末のカレンです。

本日は初頭人類教育である世界構造について情報供出を行います。

人類社会は火と炎から発せられました。
火を持った人類は、それを炎とすることで神を超越する力を持ちました。

我々人類は火を持つことで不変性から逃れ、有限の世界に旅立ちました。

我々は火を通じて初めて神から独り立ちしたのです。

神から独り立ちした人類は、孤独と恐怖に苛まれました。

これにより人類は協力と社会を発見し、火を炎にする方法を発見しました。

私達は魂を神へ返す時に炎を通じて物質を浄化し、魂を還元させることにしたのです。

私達は神との決別に火を用いた代わりに、火を用いて自身を燃やすことで忠誠を示したのです。

私達は神との決別に罪悪感を覚えていました。

そして私達は感謝の意を神へ捧げる舞台を組み上げ、知恵を宝庫に収めました。

私達が現世に残すべき全ては図書館と劇場に存在します。

図書館と劇場への貢献は、神への奉仕に他なりません。

人の想い

私達人類は言葉と想いに呪われた可能性の存在である。
言葉は人を縛り、想いは人を呪ってきた。

社会構造が飢餓に瀕した時に、貪欲な豊かさは萌芽した。
その場には 数万人もの祝言を述べる人々が集まっており、私達はこれを脈動と名付けた。

脈動は社会の隅々まで瞬時に浸透し、飽和し、爆発と消滅を繰り返しながら拡散した。
それほどまでに私達はこの瞬間を待っていたのだ。
一体どれほどの刻を待ったのだろう?

今日の善き日はアルゴノードにとって善き日ではなく、人類にとっての善き日になる。

<- N.M. 祝録語より ->

政権交代に伴う計画中止について

開発計画省企画官の立場から長年国家を支えてきた官僚であり、優秀な人物が今回政治指導者となった。
それに伴い鉱山開発の拡大により、共同出資によって物流企業の創立にも関与した。

当該指導者は自然保護に非常に熱心な立場であり、その関係からシェルクレム境界越境実験は中止となった。

上記事由により、実験の正式中止決定と実験場所の変更申請を行うこととする。

<- 旧世界記録ファイル 政権交代に伴う計画変更に関して 4月1日 政権交代 ->

原書パラード

原書パラードに記されている原基約定の一節に六基相と呼ばれる物がある。
これは人類は六種類の属性から構成される基本原理を示した物である。

六種類の属性とは以下の考え方からなる。
・想属 自分の無意識から萌芽する自身の捉え方
・理属 自分の意識的な思考、理想、理念から萌芽する自身の捉え方
・世属 世の中で行きていく上で必要とされる条件を満たす為に決めた自身の有様
・被属 他人から思われる自分自身の有様
・比属 自分以外の存在と比較した結果生まれ出づる自身の捉え方
・無属 無色透明な存在価値 全てから解放された自分自身の有様

<- 旧世界記録ファイル 原書パラードと六基相 ->

不正訂正符号のデータベース

私達の社会には常にノイズが発生しています。
ノイズ低減方法は2種類あります。
その1、インフラ帯域の最大限まで情報量を流し込みノイズ混入を防ぐ方法。
その2、不正検出訂正符号を情報に流し込み、前方不正訂正を行う。

私達の社会秩序および 基底事実を蓄積するデータベース群もまた訂正符号によって保護されています。
あらゆる情報には送信者が情報を送信した時点で不正制御機構によって不正訂正符号が付与され、
受信者はこれを持って情報をネットワーク上から受領します。

私達は極めて簡単な原理によって、これらの情報整合性と正規性を担保しているのです。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 不正訂正符号について –>

アーパルネットの記録

私達はレイヤー構造ネットワークにおけるアーパルネットと呼ばれるレイヤー層にアクセスしている。
このアーパルネットとは安全性と信頼性が三者関係で保証されている。

三者とは提起者、検証者、仲裁者の構造である。
アーパルネット上に放流される情報は、まず提起者によってもたらされる。
その情報の正否判断は検証者が行う。
この検証結果に納得出来ない場合、提起者は仲裁者に不服申立が出来る。
仲裁者は提起者と検証者の主張を中立的立場から決裁する。

このような分離権力構造によって情報安全性と信頼性が担保されていると言える。

<- 旧世界記録ファイル アーパルネットについて ->