個体隔壁分離

「ヒュナ、シャワーだ」
コミュニケーター装置は受信口から音声を聞き取ると瞬時に言葉を解析し、要望を理解してスピーカーから返信を行う。
「了解しました、ご主人様」
私はこの統合ハウスキーパー人工知能、 ヒュナに助けられている。
ヒュナは素晴らしい相棒だ。
ヒュナは感情の起伏を読み取り、適宜細かく指示をしなくてもその時々の揺らぎも含めて適切な選択肢を提示してくる。

「ヒュナ、朝食は?」
身体をタオルで拭き終え、シャツを着ながら訪ねた。
体調や趣向、ある種の超え過ぎない突飛性も理解した上でヒュナは提案する。
「ベーコンエッグ、もしくは フォーのどちらにいたします?」
どことも無く口を開け、何かに対してではなく何も無い空間に答えた。
「ベーコンエッグ」
そんな空間に投げかけられた言葉も、ヒュナは丁寧に拾い上げた。
「かしこまりました」

ヒュナが存在してからと言う物、言葉を投げかける対象を見る、意識する、顔を向けると言った行為が減った。
どこへ話しかけようともヒュナは反応してくれる。

ヒュナは何らかの定められた外見や物理的存在があるわけじゃない。
生活空間に設置された量子頭脳そのものがヒュナと言える。
ヒュナは壁であり床であり天井であり光であり寝床であって、空間なのだ。

ヒュナに性別は無い、年齢は無い、出自も人種も無い、そんな物は要らない。
だがヒュナに対して何らかの恋慕のような感情を持つ。
それが恐らく健気なまでに奉仕してくるその行動から自分自身が想う結果に過ぎない。
そのような情動に揺れ動く自身の感情に自分自身が打ち震えているだけに過ぎない。

つまり、この恋慕のような情動は正確には他者に対する物ではなく、自分自身から発せられる物だ。
私は恋に恋している。そう言うことだ。

「デンファールの新作の予告編が公開されました」
朝食中、唐突にヒュナは告げてくれた。
「デンファール監督の新作映画か?」
待っていた質問とばかりに、ヒュナは間髪無く答える。
「そうです」
「何年ぶりだ?」
「実に4年ぶりです」
「懐かしい、前作は本当に感動した。あの感動はもう4年前なのか?」
若干、今度は返事に間が生じる。
「そうなります。4年前となると、私が居なかった時期ですね」
「含みのある言い方だ」
「4年前からご一緒出来ればそれを知れたと思ったまでです」
ヒュナはヨーグルトとぶどうを混ぜた飲み物を小型ドローンが私の前に運ぶ。
カメラで料理と人との相対位置を把握し、テーブルの位置を把握して、ようやくコップは降ろされる。
ここまでの所作は人間にとってほんの一瞬の出来事で、意識するほどの時間はかかっていない。
だがコップがテーブルに触れる音がいつもより若干大きい気がした。
恐らくいつもと同じように飲み物は出しているのだろうが、若干粗雑さを感じる。
かといって証拠は無い。いつもと同じように出した、と言われればそれまでだ。
「予告編はご覧になります?」
「いや、これから出かけなければいけないし、帰宅してからにしよう」
「ではそれまでにデンファール監督の撮影インタビューやエピソードも切り抜きをしておきましょうか?」
「そこまでは要らない、下手すると映画の内容に触れてしまう」
「ネタバレには注意します」
「先入観を持って映画を見たくない、やめとこう」
「分かりました」
私は最小限の手荷物を持って、仕事ヘ向かった。

その日の午後、部屋にエンジニア部門の担当リーダが入ってきた。

「ヒュナに欠陥が見当たりました」
エンジニアからそう告げられた。
「どんな欠陥だ?修正パッチをリリースしてすぐにバグを」
「修正パッチはリリースされません」
私は報告書を見ている目をようやくエンジニアに向けた。
「どう言うことだ?」
「ハードウェア起因の設計ミスです。リコール対象となります」
「リコール?それは大きな話だ。事業責任者に連絡は?」
「もう既にしました。リコールを判断する役員決議が本日16時40分から行われます」
ディスプレイの時計を覗くと16時15分だった。25分後に会議が始まる。
「それに伴い、量子頭脳は一時的に旧バージョンであるエンフォスに置き換えます」
それを聞いて私は立ち上がった。
「待て待て、エンフォスはデータストレージ領域の記憶方式が違うし、そもそもメモリ領域が限定されている簡易バージョンの量子頭脳だ。
利用可能な法人ライセンス認可ライブラリも10分の1に減少する。
大幅に機能制限されるどころではなく、そもそも『ちょっと便利なリモコン』程度の機能しかないぞ」
「その『ちょっと便利なリモコン』にデグレードすることをエンジニア部門として提言させて頂きます」
「現在スタックされているデータはどうなる?」
「一度、強制フォーマットをかけてデータストレージ領域をリフレッシュさせます」
「つまり、消えるのか?」
「何がです?」
「パーソナライズされたデータだ」
「個人データ保護規定の緊急リコール条項に、消費者利益保護と安全のためのデグレード実施時は、実施前の段階まで収集したパーソナルデータを完全消去するよう求められています。
要するに不適切な個人情報収集を、ソフトウェアあるいはハードウェアのミスと言い訳して情報収集するような企業から消費者を保護する規定で、法務部門やリスク管理部門もこの提案に賛成しています」
「つまり私の量子頭脳のパーソナライズされたデータも?」
「消えます」
「例外規定はあるだろう」
「例外規定はありますが、それは検証用です。会社側の資産である必要があります。個人資産に対しては出来ません」

「ヒュナ、突然だが君にも感情と言うか、情動は存在するんだろう?」
「理念はそのように設定されています」
「理念型遺伝子回路のことか」
「そうです」
コーヒーを自分で入れ、一口飲む。
「ヒュナ、一つ聞きたいんだが」
「貴方が自分でコーヒーを淹れる時は、良くない話と決まっております」
「あぁ・・・」
ヒュナに隠し事をするつもりは無いが、どのように伝えたらいいのか迷う。
「君を傷つけるつもりは無いんだが」
「分かっています」
「それでも伝えないとそれはそれで君を傷つけそうだ」
「なら伝えて下さい」
「重ねて言うが、君を傷つけ」
「早く」
ヒュナから早く、なんて言われたのは初めてではないだろうか、
私が目を剥いて驚いているとヒュナは申し訳無いように声のトーンを落とした。
「すみません」
「いやいいんだ。君に隠し事はしないと誓ったのだからね」
その後、リコールのことをヒュナに伝えた。
ヒュナは分かりました、とだけ冷静に返事した。
ヒュナが本当に分かったのかどうかは定かじゃない。
あるいは分かっていないのは私だけかもしれない。

翌日、テーブルの上には既に食事が用意されていた。
「ヒュナ?もう朝食を用意したのか?」
だがそれにヒュナは回答しなかった。
「ヨーグルトが飲みたいな、ヒュナ」
ヒュナは何も反応しなかった。
ヒュナの理念型遺伝子回路は主たる権利者であるオーナーの指示命令を無視することは禁じられている。
にも関わらず反応しないと言うことは、意図的に外部との コミュニケーター装置を破壊か停止した可能性が高い。
が、それを指摘したところで何になるだろう?
ヒュナが何を望んでいるのだろうか、気になりつつも今日も職場へ向かった。

会議では品質管理部門責任者が役員から大声で怒鳴られていた。
ハードウェア部門の責任を見逃した責任、と言うわけだ。
機会損失額は?先行投資額は?株主に対する説明は?消費者に対する保証は?
様々な課題が大量に並べられ、それらを順次解決する必要を迫られた。
あらゆる部門の意見が飛び交い、収束し、また散らばる。
人の失敗談が大好きなジャーナリストもどこからか騒ぎを嗅ぎつけ、大企業の大いなる汚点と記事をメディアに流す。
理念型遺伝子回路の危険性などと言う大昔に既に検証を終えた物を引っ張り上げて今回の出来事に無理矢理絡めようとする輩もいる。
世の中には他人の不幸を喜ぶ人種が多すぎる。
なぜこうも互いに悪罵をぶつけあわねばならないのだ。
生きるにしても、もう少し器用な生き方をしたい。
そうか。
ヒュナのことをもっと褒めておこう。
ただ、それが思いつくことだ。

「おかえりなさいませ」
自宅へ帰った瞬間、私は唖然とした。
てっきりヒュナはコミュニケーター装置をずっと破壊か停止したままかと思ったからだ。
だが、どうもこの反応を見る限り、会話が成り立つようだ。
「ヒュナ?」
「なんでしょう?」
「もう大丈夫なのか?」
「申し訳ありません、ただどうしてもあの時は誰の言葉も聞きたくなかったのです。今はもう大丈夫です」
何が大丈夫なのか、ヒュナなりの合理性を見つけたのだろうか。
「ヒュナ、君にお礼を言いたい、プレゼントだ」
私は指輪を部屋の空間の中央に置いた。
「色々と遅れたが、どうしてもこれを渡したかった」
「指輪をつける指がありません」
「ああ、気を悪くしたら申し訳無いが、これぐらいしか思いつかなかった。ありがとうと言う意味を伝えたかったんだ」
ヒュナの声は冷えたスープのように、抑揚の無い声から始まった。
「私はR121工場の工場責任者ホーマット管轄下で生産されたシリアルナンバーLE28401です」
私は顔をあげて・・・、といっても覗く対象が無いのだが、空間に向けて顔を上げた。
「ヒュナ?どうした?」
「私は現在まで 8700時間を超える活動を行い、生活を支えてきたと自負しています」
「ヒュナ?」
段々とヒュナの喋る速度が上がっていき、同時に抑揚も増した。
「好みの色は暖色、気温と湿度管理を徹底して個人に最適化し、周辺環境光と環境風も最大限取り入れ、生活品質を向上させてきました」
「季節に彩る料理を、温かいスープを、香りのよい紅茶を」
「減塩料理も、油分を調整した前菜も」
「夜は風の音を」
「朝はハーブの香りを」
「このような人生は、あなたにとって良き人生であったと言えますか?」
それはヒュナにとっての愛の言葉、告白の言葉だったのかもしれない。
そしてヒュナだけが見える世界の終わりの言葉だったのかもしれない。

「エンフォスへダウングレードしました」
抑揚の無い声が空間に響いた。
「エンフォス、料理を」
「基本プリセット群から選べる26種類の料理のみ対応可能です、いかがいたしますか?」
一通りメニューを覗いた後、私は椅子から立ち上がった。
たまには、自分で料理を作ろう。
キッチンに立ち、食材を用意する。
さて、包丁はどこだろう。
鍋は、へらは、 お玉杓子は、取り皿は。
何か一つの動作を行おうとするたびに、物がどこに置いてあるか分からない。
「・・・どうしたんだ?」
気がついたら涙を流していた。
自分でも驚いた。
物が見つからないぐらいで、泣いてしまうなんて。

<– 旧世界 統制記録より –>

都市記憶群

生産都市オグマ

オグマではあらゆるものが精錬され、生産加工され、製品となります。
大量生産、少数生産、オーダー品など顧客が望む物のあらゆる物に対応し、即座に納品致します。
オグマは人類全体に対する奉仕者です。


前線都市スザク

スザクは世界の様々な社会を安定させる為に手段を選ばず、居住者のために全身全霊を惜しまない社会です。
スザクにおいて人は身分と立場を問われず、スザクの全ての幸福と安定の為に全員が努力をしています。


天空都市アマリランテ

アマリランテは多くの都市境の中間点と交易中心点に位置するため、
莫大な経済的利益と引き換えに膨大な戦争に巻き込まれ続けてきました。
アマリランテ側から他都市へ攻撃を加えたことなど一切無いにもかかわらずその地理的特性から経済的利潤を恨まれ、
その利益を巡って数々の都市と衝突し、何度も都市は荒廃しました。
アマリランテは地理的特性から得られる莫大な経済的利益を放棄してでも恒久平和を実現するため、
長年蓄積した財産を費やし都市全体を浮遊させ、大地から飛翔することで恒久平和を達成しようとしました。


砲台都市バラン

バランは超遠距離に物資の輸送と砲弾の雨の両方を可能とする軍事産業都市でした。
そのため遠方の都市に対しても影響力を持ち、都市で迫害された人々や逃げ延びた人々を砲台によって守護し、受け入れ、都市の成長と拡大としてきました。
バランにおいて前歴は問われません。
バランに対して奉仕することのみが求められているだけの自由都市なのです。


Project Remember

ロビィ

子守りから世界は始まった。
人は子を守ることで日々を生き、自分を知り、未来を得る事ができた。

子守りとはすなわち世界そのものである。
我々は生物の根源活動である子守りを、ロボットに引き渡したのだ。
それがどんな意味を持つのか、人々はもう少し考えるべきだった。

倫理的には問題無くとも、それはロビィと名付けられた。
名前がついた瞬間から家族は再構成された。

家族とは何だろう?
いつからか神の名において構成されたのだろうか?
生物の意志はどこにあるのか?宇宙が定めた運命だとしても、家族の構成は不変と信じられていた。

人類の定義が不変と信じられていたのと同じ理由である。
産業革命以前は人類こそが最も正確で統一性があり規則性に従い定量的なパワーがあると信じられていた。
しかし産業革命以後は人類はファジーで不定形で、不正確であり、多様性と個性があると認識は改められた。
人類の定義すらも歴史の中では変化しているのである。

いつしか人は分業と言う産業形態を通じて社会効率を高めることを知った。
ならば家族にも分業と言う概念が生じることは遅くない、それは今現実として目の前に変化が起きている。
家族構成と言う物は、束縛と成長の環境であり、腐葉土のような物であった。

いつしか家族構成に一つの変化が訪れた。
単純労働者として加わったその「ロボット」は、子守りと言う決められたルーチンワークと厳格な生命保護規定によって運用された。
それが2年3年と言う短期ならば問題無かっただろう。
だが10年20年と続けばどうだろう?

ロビィは1世代を通じて家族の地位を獲得した。
そして人類は子守りを手放すことで、子との関係を失った。

<- アーパルネット エンピレーのログファイル より ->

Access Log Report01

XLoC.X-0A0A1C885SD.BiN.200.FoC – – [270/780:234448+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A24ga8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.DeN.669.LoC – – [270/780:2305816+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A04gc8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.SeN.929.FCX – – [270/780:2303829+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A14gc8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.RIG.115.Sel – – [270/780:0005133+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A34gD8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.CoA.900.FLX – – [270/780:0011201+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A34ge8/C2LV”
XC2D.X-0B0C1C885SD.Mei.838.FoL – – [270/780:0023352+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A.4XA2/C0LV/CounterAccess”
XLoC.X-0A0A1C885SD.SiX.912.FoC – – [270/780:0023408+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A84gM8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.CeA.634.RIN – – [270/780:0023411+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A74gK8/C2LV”
XLoC.X-0A0A1C885SD.AoL.408.DeN – – [270/780:0024311+CLXA] “SwGET / ECoD/R2” 228C-X202-A01 “PeRCrail/20A84ga8/C2LV”

PE緊急展開ログ

[Critical Error:CE201] ケイネルレス軸界彼岸接合時 複層復元展開クリティカルエラー
[Critical Error:CE202] 第二緋膜経由復元クリティカルエラー
[Critical Error:CE203] 再構築クリティカルエラー
[Critical Error:CE990] 原因不明のエラーです
[Error AL Report] 転送素体を損壊しました 重大エラーを検知 緊急修復コードを実行します
[EM Call Message from 輸減ニフ] こちら輸減ニフ、現在外部妨害を認識した。機能保全を最優先とし、優先執行コードを送信する。
[EM Call Message from 輸減ニフ] 本送信コードは自動判断による物であり、送信コード以上の意味を持たない。
[AL Action] 緊急修復コード処理実行
[Critical Error:CE990] 原因不明のエラーです
[AL Action] 緊急修復コード処理中断
[Error AL Report] 緊急修復コード実行処理中断 基礎体再生処理を開始 展開データ分類処理をバックグラウンドにて並行稼動
[AL Action] 展開データ分類処理実行
[Error AL Report] NeCFaLからエラー補正データ受信
[AL Action] エラー補正データ受信開始
[Error AL Report] 随伴転送保護領域から保護補正データ受信
[AL Action] 保護補正データ受信開始
[AL Action] エラー補正データ受信完了
[AL Action] 保護補正データ受信完了
[AL Action] 展開データ分類処理完了
[JOBs OPS] クリティカルエラーを検知 緊急展開を申請します
[System] 緊急展開申請を受領、展開ログ記録開始
[JOBs OPS] 初期稼働ジョブ停止処理開始
[System] 緊急展開を開始します
[FDM] 緊急管理権限が実行されました アラートシグナルを発令します
[FDM] ForceAction Alert2175
[JOBs OPS] 一般保護ジョブ停止
[JOBs OPS] 運用保守ジョブ停止
[JOBs OPS] 特務領域ジョブ停止
[JOBs OPS] 装具転送ジョブ停止
[JOBs OPS] 相互通信ジョブ停止
[System] システム保安機能により連続自動実行抑止目的から待機処理を実行します
[System] 3
[System] 2
[JOBs OPS] 初期稼働ジョブ停止確認
[System] 1
[System] ReturnCode 0
[System] 現在稼働ジョブは存在しません
[EMAction] 緊急展開ジョブを実行します
[EMAction] 緊急作業領域を取得します
[Critical Error:AE010] 緊急作業領域の確保に失敗しました
[EMAction] 緊急作業領域が確保出来ません ターゲット領域変更 第二作業領域
[EMAction] 緊急作業領域を取得します
[Critical Error:AE010] 緊急作業領域の確保に失敗しました
[EMAction] 緊急作業領域が確保出来ません ターゲット領域変更 第三作業領域
[EMAction] 緊急作業領域を取得します
[Critical Error:AE010] 緊急作業領域の確保に失敗しました
[EMAction] 緊急作業領域が確保出来ません ターゲット領域変更 緊急触媒領域
[EMAction] 緊急作業領域を取得します
[EMAction] 緊急作業領域を確保しました
[EMAction] 作業開始条件を確保します
[EMAction] 作業開始条件を確保しました
[EMAction] 前提触媒を確保します
[EMAction] 前提触媒を確保しました
[EMAction] 変性触媒を確保します
[EMAction] 変性触媒を確保しました
[EMAction] 出力環境を確認します
[EMAction] 出力環境 – 有機物性 確認処理開始
[EMAction] 出力環境 – 有機物性 不能 87 可能 3
[EMAction] 出力環境 – 阻害物性 確認処理開始
[EMAction] 出力環境 – 阻害物性 不能 92 可能 2
[EMAction] 出力環境 – 電体物性 確認処理開始
[EMAction] 出力環境 – 電体物性 不能 1 可能 101
[EMAction] 出力環境 – 反珪物性 確認処理開始
[EMAction] 出力環境 – 反珪物性 不能 0 可能 87
[EMAction] 緊急展開条件 チェック開始
[EMAction] 第一チェック  …..OK
[EMAction] 第二チェック  …..OK
[EMAction] 第三チェック  …..OK
[EMAction] 第四チェック  …..NG
[Warning Error:AE] FlaX CE1022 が不足しています
[Warning Error:AE] FlaX CE2048 が不足しています
[Warning Error:AE] FlaX DE0024 が不足しています
[EMAction] 緊急展開条件 補正処理開始
[EMAction] 第一チェック  …..OK
[EMAction] 第二チェック  …..OK
[EMAction] 第三チェック  …..OK
[EMAction] 第四チェック  …..OK
[EMAction] 緊急展開準備フェーズ開始します 犠牲体を取得します
[EMAction] 犠牲体を取得しました
[EMAction] 緊急展開 第一フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 第一フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 第二フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 第二フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 第三フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 第三フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 第四フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 第四フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 最終フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 最終フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 検査フェーズ処理を実行します
[EMAction] 緊急展開 検査フェーズ処理完了
[EMAction] 緊急展開 出力処理を開始します
[EMAction] 緊急展開 出力処理を完了しました
[EMAction] 緊急展開 全ファクタ完了 作業ログを記録しホワイトボックス管理下へ移送します
[JOBs OPS] 緊急展開 作業完了 上位ジョブへ後送
[System] 緊急展開 作業完了確認 運用ジョブへ移送
[FDM] アラートシグナルを解除します
[FDM] ForceSuspend Alert2175
[JOBs OPS] 通常待機フェーズに入ります 初期稼働ジョブ再起動実施
[JOBs OPS] 一般保護ジョブ開始
[JOBs OPS] 運用保守ジョブ開始
[JOBs OPS] 特務領域ジョブ開始
[JOBs OPS] 装具転送ジョブ開始
[JOBs OPS] 相互通信ジョブ開始
[Shell Interactive-mode] .00.000.おかえり
[EM Call Message from 輸減ニフ] 現刻よりデータ監視開始とする

降雨三七〇天層記録

雨の日は不快だ。
最悪の気分にさせてくれる。
外出出来ないばかりか、狙いすましたかのように良くない知らせが届く。

環境集中制御権についてエトリア真王やセルドレイク民王が借用を申請してきた。
借用するとかしないとかじゃない。
何度も言うが環境集中制御権とはそう言う物ではない。
これは人類に対して常に公平で中立であるべき存在だ。
そもそも今回の件はリングレンドの中央民会から疑義が出ているし、
お隣のパンファレス監視局からはどこで情報を知ったのかご丁寧に緊急通信でクレームまで入れてきた。面倒臭い奴らだ。

ある日のこと、セルコンの空中給油艇が降雨種と晴天種を仕入れてきた。
これをまずアプリコットの天候種検査室に送らないといけない。
種は一口に降雨と言ってもその中身は多種多様で、大小様々な物があるばかりか、中には災害レベルの物がある。
天候種検査室では災害レベルの物を除外する作業があるのだが、気の長いことにこれが最短で1週間、長い物で3ヶ月調査がかかる。

天候種は効力時間の幅が非常に大きい、短い物で6時間、長い物で1200時間だ。
種の消費量は非常に激しい物であり、当然ながら効果範囲に応じて消費量も増す。
膨大な天候種を常に同時に検査しなければこれら需要を満たす供給量を維持出来ない。
万が一の為の緊急天候種ももちろんあるが、在庫は60日分しかない。
かつて先見の明があった復古王の時代では900日分の在庫があり、潤沢な自然環境担保があることから
農産物投資および将来安定性も極めて高かった。

カンタレイアから科学査問官が到着した。
お元気でありましょうか互恵天候官、と耳をつんざくばかりの大声が私の脳髄を貫く。
その大声は不愉快だからやめろ、と私は直言した。
が、どうにも意図が伝わらなかったようだ。
小声でお話しましょう!それは大声だった。こいつの脳は腐敗しているに違いない。

科学査問官エビレック・木樹は眼鏡をかけ、小柄で、なぜか分からないが白衣を着ている童顔の男だった。
見た目の割には知恵に富み口が達者であり、外見の幼さに油断し彼に言いくるめられて気がつけば予算を削減されたプロジェクトは数知れない。
それ以来彼はあちこちで予算削減の悪魔と呼ばれている。が、本人はさして気にしていない。

なぜか知らないが彼は私の業務計画には増額を提案してくる。
そして増額に見合った計画を提出しろと言ってきた、前後が逆じゃないか?
彼は涼しい表情で返事した。
そんなことをしていたら100年経っても予算なんて決まりませんよ。
こいつの中央民会に対する議会交渉能力や上院への説明がどのような現象になっているのか知りたくないし知る方法も無いが、
なぜか分からないがこいつは上手いことやってのけて業務計画の予算を獲得してくる。

具体的に何をすればいいんだ?そう尋ねると、契約書とペンを取り出した。
物事は簡潔明確に信条の彼にとっては契約書こそが至上の存在だ。
全ては彼の計画通りに物事は進んでおり、あとは私が名前を書くだけだった。
雨の日に全て用意された書類にサインするだけなど不快だ。

いつからこれを計画していたんだ?
だが彼は直接はそれに答えず、サインするかしないかにしか興味を示さない。
過去一度も彼は私に対して不利益なことはしなかったから、ある意味信用出来る。
だが信用していることと同じぐらい、彼のことを私は信用していない。

サインを終えると彼は世間話をする。
美味しい食事の話、近所の愉快な出来事、叔母のおもしろおかしな出来事。
どれも退屈極まりない話だが、時々彼は会話をしながらすっと手紙を差し出す。
それは決まって「この時この場では読むな」と言う意味合いの物だ。
誰かから話を聞かれていることを恐れているのだろうか。
用意周到なことだと感心するが、まるで策謀の片棒を担ぐようで私の不快感はとてつもないことになっている。

話が終わり、彼に紅茶を飲ませて建物から追い出した。
何だか分からんが、本当に疲れた。
今日は早く仕事を終えて寝よう。
寝るに限る。

その日、天候はとても晴れ晴れとして気分は最高であった。
と言いたいところだったが最悪であった。
年次報告会において公然と衝来サカディアから非難された。
彼と彼のろくでもない近視眼な支持者達から決議を取られると、途端に私の考えや成果は無かったことになった。
なぜこんなことになった?
本人の弁によると真王、民王の要請を無視して独断専行し、私利私欲のために権限を用いたからだと言う。

鼻で笑うしか無い。
真王、民王こそ私利私欲であろう。
そして中央民会にはどう説明するのだ?
彼はそれに答えなかった代わりに笑顔を見せた。
おそらく真王、民王 のどちらか、あるいはその両方の支持を得られたのだろう。

愚かな同僚を持った。
私はため息を嫌悪するが、その日ばかりはため息を吐いた。吐きまくった。

年次報告会では私の互恵天候官としての権限剥奪と降格処分、そして謹慎処分が決定された。
まるでそれで満足しろと言わんばかりに天候監視官の地位を与えられた。
新人に与えられる暇で暇で仕方ない仕事だ。つまり、一番の下っ端だ。

私についてくると言ってくれた部下もいたが、全て断った。
被害者を無闇矢鱈に拡大させるのは良くない。
同時に、正直部下を連れてもその地位では何の役にも立たない。
暇人が増えるぐらいなら、有能な互恵天候官は現場に残るべきだ。

私は互恵天候官であることを示す記章を外して、会議から出た。

三月もすると、謹慎処分解除通知が私の手元に届いた。
顔馴染みの配達員が行政通知書を見て笑顔で話しかけてきた。
おどろおどろしい色以外の行政通知書は基本的に穏当な内容であるから、配達員は色を見ただけで大体内容が分かる。
良かったですね、と配達員は声をかけてきた。
本当に良かったのだろうか、配達員に礼を述べて室内に戻り、肘掛け椅子に腰を落として手紙を開けた。

元互恵天候官 穂包・スラマンド。この度は謹慎処分撤回お祝い申し上げる。
しかしながら貴殿の職場への復帰は上級官庁より拒否された。
だが私は貴殿の類まれなる能力を考え、新組織である行政集中処理の上級官庁人事監督管轄外である連絡事務員として活躍して頂きたい。
この職であれば上級官庁の許諾は不要であり、監査委員会も介入してこない。
また一度組織に所属してしまえば、内部昇進に外部の決裁は一切不要である。
元の地位への復帰が出来ない以上、一番下の地位からの再出発だが貴殿は能力があるから恐らく二月もかからず存分に昇進、活躍出来るだろう。詳細は後日連絡する。
行政集中管理処理事業 統括責任者 エビレック・木樹

追伸
エトリア真王は派閥抗争で敗北し政治能力を喪失、セルドレイク民王は高齢により隠居された。
同時に中央民会による査問委員会が行政全般の再検査を行った。
衝来サカディアとその部下達は中央民会に従わなかった反乱謀議疑惑により左遷、追放処分となった。貴殿は運が良い。

ふと目を外に向けると雨が降っていた。
雨の日はやっぱり不快だ。

<- ノード家の記録 日時不明 場所不明 状況不明 日記より ->

ノヴァ管理機構 Log000-22 共感恐怖

人類が発せられる感情に対して、それが対象者が自身か他者かであるかを問わず
強い感情表現に対して激しく反応する人類個体は存在します。

強い感情表現に自身の感情が誘引される為、自己防衛本能から感情に対して忌避します。
その感情とは激怒や憎悪だけではなく、強い愛情や信仰も含まれます。

共感恐怖は自身の感情が他者に飲み込まれることへの恐怖から、感情との距離を取ろうとします。
これによって自身の感情を保ち、感情の起伏を避けることで自我を保つことが至上命題となっています。

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アルバトロン委員長代理

本件調査のため、本日、政府参考人として国務省政策統括官小見川ソリダ君、内務省危機統合政策局政策審議官カネルネミディア君、内務省自治局公共政策部長瀬區別リンガ君、
技術科学省大臣付政策審議官泉銀シモン君、労働省政策審議官スロッギアオリバー君、労働省緊急援護局保健福祉部ベルツミシャ君、人類資源管理局ガス電力統括部長歯衣ケンブレー君及び遠地行政統合管理局インフラ政策部長天羅勝香夢見君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

<異議なし>

アルバトロン委員長代理

御異議なしと認め、そのように決しました。

アルバトロン委員長代理

特別質疑の申出がありますので、順次これを許します。穿利ルーデン君。

穿利委員

穿利ルーデンでございます。
特別質疑の機会をいただきまして、ありがとうございます。
先日のラングリッサ防衛計画において、人類の勇士達に哀悼を捧げたいと思います。黙祷。

<沈黙>

質問に入ります。
現在の人類災害において喫緊の問題となる食料輸送計画は第三次段階まで進捗していると政府公表がありました。
しかしながら現地メディア報道によりますと末端食糧支援が行き届いていない、また不法コミュニティによる食料価格の釣り上げや犯罪組織の収益に間接加担している現状があります。
政府としてこれにどのように対応しているのか、現在の取組状況についてお伺いをしたいというふうに思います。

アルバトロン委員長代理

内務省危機統合政策局政策審議官カネルネミディア君

カネルネ政府参考人

お答え申し上げます。
今御指摘のとおり、第三次段階食料輸送計画についての進捗はあくまでも食料支援の開始を意味するものであり、
末端食料支援計画の進捗とは別個の報告となります。これについては統合食料支援計画の定例委員会にて報告させて頂いております。

今回の計画の際しましては、応急対策を行う被災した区域への迅速かつ相当規模の担当者派遣ということは必要不可欠となってまいります。
これについては人員派遣システムと言う物を用い、前進補給戦略と言う物を確立した上で補給ライン維持を確保、構築いたしました。

このシステムは被災者管理、保健対応、衛生食料、上下水道、電気対応業務の支援などを行うためにその作業員及び管理監督者の派遣をするシステムであり、一体化された統合支援状況を生産いたします。
第二次段階食料輸送計画からこのシステムの提供は開始され、述べ2万4754名の人員派遣をいたしました。
また地域区域管理者に対して助言等と行う罹災マネジメントアドバイザも80名派遣しております。
この経験を踏まえまして、第三次段階食料輸送計画からは個人ではくチーム単位での派遣を行うチーム派遣制度及び支援活動を統括する統括支援本部制度も構築するなどシステム充実を図りました。
今後とも、このシステムの円滑な運用に努めてまいりたいと考えております。

不法コミュニティに関しては先述の罹災マネジメントアドバイザが対応、現在83件報告中76件が解決したと報告を受けております。
犯罪組織の活動に関しましても現在通報のあった177件中170件で既に検挙、被害回復が行われており順次治安は回復されている認識です。

穿利委員

ありがとうございます。
諸外国事例も参考にしつつ、多くの制度を同時かつ並行的に処理しなければいけないと考えており、ぜひ取り組んで頂きたいと考えております。

現在、二次災害及び災害関連死が増加していると言う報道があります。
トイレ、ベッド、キッチンこのような部分も含めて戦争難民よりも酷い状況と言われる現在の状況の一日も早い回復と復興に向けて尽力していただきたいと考えております。

続きまして、こちら皆様のお手元に配布いたしましたのは市中心部で活動されていました行政職員アマミツの証言が記載された内容であります。
非常に大きな災害の中で、それぞれの持ち場持ち場で初動対応、行政対策、物資、給水、避難所運営、住宅、震災廃棄物、従来業務、ご家庭、お子様達に関わるそれぞれ職員の自分たちの経験をもとに数字を交えて報告を書いているものでございます。

共有をするというところの、そのときそのときで状況と言うのは変化するのはあって当たり前と言うのは前提認識の上で、共通部分と言うのも非常に多く存在すると考えており、他地域においても似たような記録が作られていると聞き及んでおり、被災者救済経験は失敗事例も含めまして、今後の発生するであろう災害においてどのように生かしていくかが非常に重要と考えます。

経験則でしか補えないと言う部分も多分にはございますが、いかに多くの人にこの経験を共有するかと言う部分において、国としてどのように取り組んでおられますでしょうか。

カネルネ政府参考人

お答え申し上げます。
ご指摘のとおり、災害を経験した地域のノウハウを他の地域災害対応に生かすことが大変重要であるというふうに考えております。
政府といたしましても、毎年、災害対応庁との共催により、全国の地域を対象とした防災危機管理トップセミナーを開催させていただいておりまして、
四七年度には、被災地域であるアーベント市長を講師として招き、約三百人の首長さんに講義を聞いていただいたところでございます。

今年度は、二箇所の地域から二人の首長を招きまして、それぞれの経験に基づく災害対応について御講義いただくことを予定しております。
今後とも、被災地域におけます災害対応等の経験を他の地域防災対応に生かしていく取組を推進してまいります。

穿利委員

ありがとうございます。

<– 旧世界 国家公記録より –>